医療従事者の方へ

トップページ > お知らせ > お知らせ新型コロナウイルス感染症について >日本癌治療学会,日本癌学会,日本臨床腫瘍学会(3学会合同作成)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療についてQ&A
-患者さんと医療従事者向け ワクチン編 第2版-

日本癌治療学会,日本癌学会,日本臨床腫瘍学会(3学会合同作成)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療についてQ&A
-患者さんと医療従事者向け ワクチン編 第2版-

2022年2月16日

はじめに
2021年3月にわが国でもワクチン接種が始まり、国民全体の約8割の方が初回接種のスケジュール(2回接種)を済ませています。がん患者さん、特に治療中のがん患者さんにとって、COVID-19ワクチンを接種したほうがよいのか、有効性はどれほどか、安全性は大丈夫か、副反応のリスクが高まることはないのか、がん治療に影響を及ぼすことはないのかなど、不安や疑問があったことと思います。接種率の高さをみると、不安やスケジュール調整が難しい中でも、多くのがん患者さんが接種されたことと思います。国内におけるワクチン接種が普及した後の感染者数の減少をみると、がん患者さんにも一定の効果をもたらしたと思われます。変異株の出現、ワクチンの効果の持続期間などの影響により、2022年初めには再び感染者数の増加をきたしています。今後は追加接種(3回目接種)について悩まれている方もいらっしゃるでしょう。COVID-19のワクチンが実社会で使用されるようになって1年以上経過し、多くの知見が蓄積されてきました。主治医を含め医療従事者の方も患者さんから相談されることもあると思います。各学会・団体から様々な考え方や推奨も出されています。本Q&Aは、国内外の学会や団体のおける考え方、最新の文献を参考に、ワクチンについてできるだけ正しく評価、判断できるように作成しました。多くの皆さまに、早く国内外の専門家による見解をお届けするために、本Q&Aには難しい言葉や用語が含まれたままとなっています。がん患者さんをはじめ医療従事者でない皆さまには、ご自分の状況や心配なことを主治医の先生とご相談される際の資料としてご活用ください。ただし、現時点での情報に基づいたエキスパートオピニオンであり、今後の新たな情報の集積と共に変更となる可能性がある点にご留意ください。

Q1:がん患者はワクチンを受けた方がよいのですか。

A:前向きに検討しましょう。ベネフィットとリスクを理解し、主治医の先生と相談して判断することが大切です。

解説
我が国で出されている「新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き、6.2版」1)では悪性腫瘍が重症化因子のひとつに挙げられています。全てのがん患者さんで重症化や死亡のリスクが高いわけではありませんが、高齢者、全身状態(パフォーマンス・ステータス: PS)が著しく不良な方では死亡リスクが高くなることが報告されています2)。また、血液や肺の腫瘍においてリスクが高いという報告もあります3)
現時点で、我が国で承認されているCOVID-19ワクチンはファイザー社のBNT162b2、モデルナ社mRNA-1273、アストラゼネカ社ChAdOx1 nCov19です。
COVID-19ワクチンには予防効果というベネフィットと様々な副反応が生じるかもしれないというリスクがあります。がん患者さんのワクチン接種のベネフィットとして、発症や重症化の予防、検査やがん治療を遅滞なくより安全に進められることがあります。がん患者さんに対するCOVID-19ワクチンについては、ワクチンを受けたがん患者約2.9万人を対象とした観察研究が報告されています4)。この研究では、がん患者さんであってもCOVID-19ワクチンを2回接種することで感染リスクが低下することが示されています。一方でワクチンの感染リスク低下効果は58%でした。非がん患者さんでのmRNA COVID-19ワクチンによる感染リスク低下効果は90%以上であり、がん患者さんではワクチンの効果が減弱する可能性が示唆されます。特に血液がんの場合やワクチン接種前6ヶ月以内にがん薬物療法を受けた場合は特にワクチンの効果が低いことが報告されています。
がん患者さんにおける副反応について、臨床試験の成績と比較しておおむね同程度であり、より程度が強い、あるいは頻度が多いという報告はありません。あるいは、がん患者さんに特有なワクチンの副反応も報告されていません。
がん患者さんにおける重症化の可能性を考慮すると、ベネフィットがリスクを上回ると思われ接種が推奨されます。がん患者さん一人一人がそのベネフィットとリスクを正しく理解して、主治医の先生と相談して、接種するかどうかを自分で判断することが必要です。

A:前向きに検討しましょう。ベネフィットとリスクを理解し、主治医の先生と相談して判断することが大切です。

がん患者さんに対してワクチンの効果をさらに高める方法はまだ確立されていませんが、低免疫の患者(臓器移植患者)さんに対して3回目のワクチン接種を行った場合、抗体陽性率が2回接種後よりも高まったとの報告もあり5)、がん患者さんでも追加接種による効果増強が期待されています。3回目のワクチン接種を行った場合の副反応は、1回目、2回目の接種時と比較して、大きく増強することはないようです。

  • 1) https://www.mhlw.go.jp/content/000888608.pdf PDF
  • 2) Tian J, et al. Lancet Oncol. 21(7):893-903, 2020.
  • 3) Mehta V, et al. Cancer Discov. 10(7):935-941, 2020.
  • 4) Wu JT, et al. JAMA Oncol. 2021 Dec 2:e215771.
  • 5) Kamar N, et al. N Engl J Med. 2021. Aug 12;385(7):661-662.

A:がんの治療法には、主に、手術、放射線照射、薬物治療があります。それぞれの治療別に、ワクチン接種の可否、タイミング、注意について説明します。

接種の可否:

手術予定あるいは手術後であってもCOVID-19ワクチン接種は前向きに検討すべきと考えられます。

接種のタイミング:

全米総合がん情報ネットワーク(NCCN)によるとがんの外科手術を受ける患者さんにおいてもワクチン接種が推奨されています1)。一方、ワクチンを接種していないという理由で予定手術を延期したり、ワクチン接種のスケジュールによって手術日を変更することは推奨されていません2)。また、ワクチンの効果という見地からは特にワクチン接種のタイミングに関しての推奨はありません。ただし、がんの種類や進行度によって手術を延期しても影響が少ないと考えられる状況から延期を考えるべきではない状況まで、様々な場合が想定できます。また、地域の感染状況も考慮する必要があると思います。ワクチン接種から手術までの期間はワクチン接種の副反応か手術の合併症かを見極める目的で2週間程度あれば十分と考えられています。主治医の先生とよく相談してください。
手術とワクチン接種のタイミングとして考慮すべきこととして接種後の発熱や悪寒があります。発熱は1回目の接種ではまれですが、2回目の接種では約15%に発症すること、接種後1~2日、長くとも1週間以内に消退することが知られています。待機的に予定できる手術では、発熱がワクチンの副反応か手術の合併症に関連する発熱かの鑑別をしやすいように、接種から手術まで数日の間隔、最長でも1、2週間空ければ問題ないと考えられています2)
計画的な脾摘を伴う術式を予定する場合、脾摘による免疫不全状態も考慮し、手術予定日の前後に2週間以上の間隔を設けて接種することが勧められます2)
COVID-19ワクチン接種に伴うワクチン接種側の片側性リンパ節腫大、特に腋窩リンパ節腫大は、ワクチン接種後によく見られる臨床症状/所見で、最長ワクチン接種後 10 週間後まで持続することが報告され、乳がん検診やあるいは乳がんの画像診断において注意が必要とされています3)。このような点から乳がん患者さんの術前のワクチン接種のタイミングに関して、他のがんの手術と同様手術まで1週間の期間を空ける事、ワクチン接種部位としては患側とは対側の上腕か可能なら大腿への接種を考慮する事、術後抗生剤投与に関しては通常通り行う事などを推奨する報告も見られます4)

接種の可否:

ワクチンの成分に対する何らかの重篤または即時性のアレルギーの既往がなければ、放射線治療中あるいは治療前後であっても、COVID-19ワクチン接種は積極的に検討できると考えられます1,2)

接種のタイミング:

ワクチン接種の時期、注射の場所、治療内容に関連した注意事項などについて、担当の放射線腫瘍医に相談することをお勧めします3)
ワクチン接種と放射線治療のタイミングに関するデータはありません。しかしながら、発熱・倦怠感などのワクチンの副反応で放射線治療を休止することは避けるべきですので、可能であれば翌日照射のない週末にワクチン接種を受けるのが望ましいと考えられます。また、抗がん剤と放射線治療を併用する場合は、「3.薬物治療」の項も参考にして頂き、抗がん剤投与日および投与予定日の数日以内、白血球、血小板が低下した骨髄抑制の時期は接種を避けた方が望ましいかもしれません。

接種後の注意:

ワクチン接種によって放射線治療の合併症が増強する心配はありません。骨髄抑制の時期でなければ、発熱や痛みが生じた場合、一般的な対応4)でよいと思われます。


がん薬物治療全般について

接種の可否:

がん患者さん(特にがん薬物治療中)では、非がん患者さんと比べCOVID-19ワクチンによる感染予防効果が低下する可能性がありますが、それでもその効果は有益であり積極的な接種を検討すべきと考えられます。

接種のタイミング:

可能であれば、がん薬物治療開始前にワクチンを接種しておくのが望ましいですが、既にがん薬物治療中の方もワクチン接種を積極的に検討します。ワクチン接種の予約とがん治療が重なる場合、どちらを優先するか、あるいはワクチン接種を優先するためにがん治療を休薬、延期することに関して、がんの種類、進行速度、治療のスケジュールやワクチン接種の予約の取りやすさ、初回接種か追加接種かなど、さまざまな要因が考慮されます。主治医の先生と相談するとよいでしょう。
薬物療法中にワクチンを接種することで、ワクチンの薬効が弱まる可能性に関してですが、薬物療法にはさまざまな種類があり、これまでの報告では、ウイルスに対する抗体(免疫グロブリンというタンパクを用いて評価)の量が少なくなるといわれています。しかし、一定の抗体の産生はされており、抗体量が少ない方でも違う免疫(細胞性免疫というリンパ球による免疫)が反応するという研究結果も出ています。
 そのため、がん患者がCOVID-19に罹ると重症化するリスクとのバランスを考えると、薬効が弱まることを懸念し接種を延期するより、治療のタイミングを見ながらワクチンを接種することのメリットの方が上回ると考えられています。

接種後の注意:

ワクチン接種後に体調が悪化した場合、ワクチンの副反応、がん治療の副作用か、がんの進行などの可能性が考えられます。ワクチン接種による全身的な副反応は、発熱、倦怠感などの頻度が高く、多くは接種後数日以内に軽快すると報告されています。がんの副反応は治療内容によってさまざまです。がんの進行状況や起きうる症状はがんの病状によります。あらかじめワクチンで起きうる副反応を知っておくこと、自身が受けているがん治療による副作用を主治医や薬剤師に聞いておくこと、がんにより起きうる症状をあらかじめ聞いておくことも大切です。症状の程度や持続期間によっては、がん治療を受けている医療機関を受診することも必要です。
また、非がん患者と比べワクチン効果が低下している可能性がありますので、ワクチン接種後も慎重に感染対策を継続することが望ましいと考えられます。

以下では既にがん薬物治療中の状況を念頭に、各種薬物治療別にCOVID-19ワクチン接種の可否、タイミング、接種後の注意について説明します。

接種の可否:

細胞傷害性抗腫瘍薬による治療中であってもCOVID-19ワクチン接種は前向きに検討すべきと考えられます。

接種のタイミング:

細胞傷害性抗腫瘍薬投与中、どのタイミングでワクチンの接種を行うのが望ましいかについては明確なデータはありません。このため現時点では細胞傷害性抗腫瘍薬投与中のどのタイミングでもワクチン接種を行うこともできますが、もし可能であれば以下のタイミングは避けた方が望ましいかもしれません。

  • ► 細胞傷害性抗腫瘍薬投与日(制吐剤として使用されるステロイドによるワクチン効果減弱の可能性)
  • ► 細胞傷害性抗腫瘍薬による骨髄抑制のため白血球数が最小になる時期(ワクチン効果減弱の可能性)
  • ► 血小板減少を伴うレジメンでの血小板減少時期(筋肉注射による血種のリスクを避けるため)
  • ► 細胞傷害性抗腫瘍薬投与予定日前の2,3日以内(ワクチン接種後2,3日は発熱を認めることがあるため)

接種後の注意:

骨髄抑制時期の前後でワクチン接種を行った場合、ワクチン接種の副作用による発熱なのか発熱性好中球減少症なのかの判断が困難となる可能性があります。発熱性好中球減少症のリスクについては個別の症例で判断する必要がありますが、判断に悩ましい場合には発熱性好中球減少症として対応することが望ましいと思われます。

接種の可否:

分子標的薬には小分子化合物、抗体薬など様々なものが含まれますが、一般に分子標的薬による治療中であってもCOVID-19ワクチン接種は前向きに検討できると考えられます。

接種のタイミング:

分子標的薬の大多数を占める小分子化合物の多くは連日の内服であるため、ワクチン接種を避けるべき時期は特に想定されません。

接種後の注意:

EGFRチロシンキナーゼ阻害薬など特に薬剤性肺炎に注意が必要な分子標的薬投与中にワクチン接種を行い、発熱を認めた場合、ワクチンによる発熱なのか薬剤性肺炎による発熱なのか検査を行わなければ判別がつきにくくなる可能性があります。薬剤性肺炎のリスクは、使用している分子標的薬の種類・使用期間など患者にそれぞれ異なりますので、個々の患者毎にワクチン接種後に発熱した場合の受診のタイミング、分子標的治療薬の休薬の要否など予め想定しておくことが望ましいと思われます。

接種の可否:

免疫チェックポイント阻害薬投与中であってもCOVID-19ワクチン接種は積極的に検討できると考えられます。

接種のタイミング:

一般に免疫チェックポイント阻害薬の体内での半減期は長いため、ワクチン接種の効果や安全性は接種のタイミングには左右されにくいと想定されます。このため現時点では免疫チェックポイント阻害薬投与中のどのタイミングでもワクチン接種を行うこともできますが、もし可能であれば以下のタイミングは避けた方が望ましいかもしれません。

  • ► 免疫チェックポイント阻害薬投与予定日前の2,3日以内(ワクチン接種後2,3日は発熱を認めることがあるため)

接種後の注意:

一部の分子標的薬と同様に免疫チェックポイント阻害薬でも薬剤性肺炎に注意が必要です。このため免疫チェックポイント阻害薬での治療中に、ワクチンを接種して発熱を認めた場合、ワクチンによる発熱なのか薬剤性肺炎による発熱なのか検査を行わなければ判別がつきにくくなる可能性があります。薬剤性肺炎のリスクは、患者によってそれぞれ異なりますので、個々の患者毎に、ワクチン接種後発熱した場合の受診の要否・タイミングについて予め想定しておくことが望ましいと思われます。

国内外の学会の考え方:

現在、各学会・団体からCOVID-19ワクチンに関する様々な考え方が出されています。基本的にワクチン成分に対するアレルギー既往などの禁忌が無い限りは、がん患者においてもワクチン接種を前向きに検討すべきとしています(表1)。

表1 各学会・団体におけるCOVID-19ワクチンに関する考え方

  細胞傷害性腫瘍薬による治療中 分子標的薬による治療中 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療中
ACS1) 治療内容毎の個別記載なし
接種に関しては主治医とよく相談を
NCCN2)


※血液がんの場合、骨髄移植後3ヶ月および骨髄抑制の強い細胞傷害性腫瘍薬投与時の好中球回復まではワクチン接種を延期する
いつでも
(データがないため、抗がん剤の投与時期とワクチン接種のタイミングは問わない)
いつでも いつでも
((データがないため、ICIの投与時期とワクチン接種のタイミングは問わない)
NCI3) 治療内容毎の個別記載なし
骨髄移植後やCAR-T療法後は治療終了後少なくとも3ヶ月は接種を延期する
ASCO4) 治療内容毎の個別記載なし
がん治療中の患者もワクチンを受けて良い
ワクチン効果の減弱を避けるため、抗がん剤投与の合間や幹細胞移植後ある一定の期間を置いた後にワクチン接種を行うなど検討することができる
ESMO5 治療内容毎の個別記載なし
血液がん(特に細胞傷害性腫瘍薬治療中・抗CD-20抗体投与・CAR-T・幹細胞移植)を含む一部のがん患者さんではCOVID-19ワクチンの効果の低下を認めるが、それでもワクチンは有効であり、接種を強く推奨する
SITC6) - - ICI治療を受けているがん患者さんはワクチンを受けることができる、あるいは受けるべき
AACR7) 細胞傷害性抗がん剤治療を受けている患者さんは優先的にワクチンを受けることが重要 - ICI治療を受けている患者さんは優先的にワクチンを受けることが推奨される
日本肺癌学会8) 可能ならば、細胞傷害性抗癌薬による骨髄抑制の時期を考慮して接種を検討する 骨髄抑制の頻度が少ないチロシンキナーゼ阻害薬などは、接種時期を問わず積極的に考慮されるべき ICI治療を受けているがん患者さんは、COVID-19ワクチンを接種すべき
可能であればワクチン接種とICI投与時期を調整することは考慮

※ 原則として、BNT162b2(商品名 コミナティ)およびmRNA-1273(モデルナ社)を想定する

ACS; American Cancer Society(米国がん協会)
NCCN; National Comprehensive Cancer Network(全米総合がん情報ネットワーク)
NCI; National Cancer Institute(米国国立がん研究所)
ASCO; American Society of Clinical Oncology(米国臨床腫瘍学会)
ESMO; European Society for Medical Oncology(欧州臨床腫瘍学会)
MSKCC; Memorial Sloan Kettering Cancer Center(メモリアルスローンケタリングがんセンター)
SITC; Society for Immunotherapy of Cancer(米国がん免疫学会)
AACR; American Association for Cancer Research(米国がん学会)

参考文献

一定量以上のステロイドやその他の免疫抑制薬内服者はワクチンの臨床試験から除外されています。それは、理論上ステロイドによる免疫反応の減弱化に伴った免疫獲得率の低下が想定されているためです。
しかし、臨床試験では除外されていた、悪性腫瘍患者、固形臓器移植患者を含んだ研究であるイスラエルからの報告では、悪性腫瘍患者さんが2%前後(約12,000人)で含まれ、免疫抑制を起こしうる治療が行われていた患者さんは2.7%(約16,000人)でした1)。それらの対象者においても接種により予防効果が認められており、接種を推奨するものと考えられます。また、ブースター接種を行うことで、より良い免疫反応が認められています。

接種の可否:

米国CDCや英国NHSでは免疫低下の状態にある患者さんでは、COVID-19の重症化リスクが高く、接種を行うことを推奨しています2, 3)。日本リウマチ学会、米国リウマチ学会より、膠原病患者さんにおけるガイドラインが出されており、免疫抑制薬の治療の継続とワクチン接種のタイミングなどが紹介されています4, 5)

接種のタイミング:

  • ステロイド(いずれの投与量においても)、免疫抑制薬/調整薬(ミコフェノール酸、IL-6阻害薬、カルシニューリン阻害薬、経口サイクロフォスファマイドなど)を使用している場合には、ワクチン接種のタイミングや免疫抑制薬の用量調節は不要とされています。アフィニトール錠(エベロリムス錠)の添付文書「併用禁忌」に生ワクチンが記載されていますが、mRNAワクチンは通常通り接種して問題ありません。生ワクチンは弱毒化したウイルスを接種するためエベロリムスなど免疫を抑制する薬剤投与中に接種するとウイルスが増殖しウイルス感染症が発症することがあります。一方mRNAワクチンはウイルス蛋白の一部を作るだけでウイルスが増殖することはありません。免疫を抑制する薬剤投与中に新型コロナウイルスに感染すると重症化するリスクがあるので、むしろ積極的にmRNAワクチンを受ける事が推奨されます6)
  • 新規に免疫抑制薬を開始する場合には、開始2週間前までのワクチン接種を推奨しています7)
  • COVID-19に対する治療薬としてもあげられるようなモノクローナル抗体薬を使用している場合には、最終投与後少なくとも90日間以上あけて接種することを考慮したほうがよいでしょう。
  • 造血幹細胞移植後の場合には、上記の免疫抑制薬の基準に加えて、移植後ワクチンアップデートにおける不活化ワクチン開始のタイミングである移植3ヶ月後が推奨されています*。しかし、現時点では他の不活化ワクチンとの同時接種は推奨されておらず、COVID-19ワクチンと前後2週間の間隔をあけることが推奨されます。
    *日本のガイドライン上は6ヶ月からが基本的推奨ですが、海外のガイドラインでは移植後の不活化ワクチン接種開始は3ヶ月からとなっています。
  • サイクロフォスファマイドの静脈投与の場合は、可能ならば、ワクチン接種の1週間後が推奨されます。
  • リツキシマブを投与されている方におけるmRNAワクチンの知見は集積されてきました。添付文書「併用注意」に生ワクチン又は弱毒生ワクチン、不活化ワクチンが記載されています。一方、mRNAワクチンでは、現時点ではワクチンの副作用が増えるということはなく、またリツキシマブの効果が減弱するということもないと考えられています。ワクチン接種のタイミングについては、「血液腫瘍治療中」の項を参照して下さい。
  • 鎮痛剤を服用中にワクチンを接種する場合の気を付ける点として、ワクチン接種によって発熱、頭痛、局所の痛みを生じることがありますが、それらの副反応に対してあらかじめ鎮痛薬を服用することは勧められません。一方で、がんの疼痛コントロールのために、オピオイドや非ステロイド消炎鎮痛薬、アセトアミノフェンなどを服用している場合には、それらの鎮痛薬を継続してワクチンを接種してもワクチンの効果への影響はないと考えられます。

接種後の注意:

副反応に注意を行うが、発熱が起きた場合の対応を主治医と事前検討しておくことが推奨されます。

・抗体産生と効果、安全性
 COVID-19のワクチンの免疫獲得についての研究では、多くで液性免疫の指標であるスパイク蛋白に対するIgG(S-IgG)の量を測定する手法が用いられています。血液悪性腫瘍患者さんにおいては、抗体産生が健常者と比較して少ないことが報告されています1)。また高齢者、慢性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、化学療法中、抗CD20抗体薬(リツキシマブやオビヌツズマブ)、ブルトンキナーゼ阻害薬などの投与が抗体産生の少なくなるリスクとして挙げられています2)3)
 特に抗CD20抗体薬の投与歴がある患者さんでは、最終投与後6ヶ月未満では抗体産生が見られず、投与後6ヶ月から1年で抗体産生が少ないながらも認められましたが、最終投与後2年でも抗体産生量が少なかったという研究が報告されています4)
 また、ウイルスに対する細胞性免疫についても検討されています。一定以上のS-IgGが産生されていた場合には、細胞性免疫の反応は良好でした5)6)。一方、抗体産生がされていなくても約1/4の方で細胞性免疫が反応していました7)。
 安全性の面では、薬物療法を受けている悪性腫瘍患者さんにワクチン接種を行った場合に副反応が増加していませんでした8)9)
 実際のワクチン効果(接種後に感染したかの有無)を検討した報告では、血液悪性腫瘍患者さんでも一定の予防効果を認めていました10) 11)。細胞性免疫を検討した報告も踏まえると、抗体産生が乏しいだろうと言ってワクチン接種を避ける根拠は少ないと考えられています。
 2021年12月から本邦でもブースター接種(3回目)が開始となりました。2回目の接種後に抗体産生が乏しかった血液悪性腫瘍患者さんでも約半数で抗体産生が見られており、細胞性免疫の反応も良好でした12- 14)。海外ではmRNAワクチン以外(Ad26.COV.S)でのブースターを用いても一定の効果を認めていました15)
 造血幹細胞移植後においても、ブースター含めたワクチン接種で抗体反応は見られていました16-18)
 尚、血液悪性腫瘍患者さんにおいてワクチン接種後の腋窩リンパ節腫脹があると抗体産生量が多かったという報告がありますが、現時点では腋窩リンパ節腫脹が抗体産生されている指標であるとの定まった見解はありません19)

接種の可否:

固形腫瘍だけでなく、血液悪性腫瘍においても薬物療法中のワクチン接種は抗体産生が少なくなるという報告がありますが、一定の安全性は確認されていますので化学療法や分子標的薬の治療中でも積極的に検討するべきです。

接種のタイミング:

化学療法中の場合には、可能ならリンパ球含めた血球減少が回復する時期を検討します。しかし、それの時期を待つために治療やワクチン接種とも大きく遅らせるべきではありません。
 リツキシマブやブルトンキナーゼ阻害薬投与中の血液悪性腫瘍患者さんは抗体産生が少ないという報告があります。自己免疫疾患の領域ではリツキシマブの投与とワクチン接種の時期についての提案がありますが、現時点でも十分なエビデンスに基づいたものではないので、その提案に従うかについては議論があります。そのため、現時点では参考の1つと考えられており、それらの薬剤投与中であっても可能なタイミングの接種が勧められます。

接種後の注意:

接種後の副反応と薬物療法の副作用の判断が必要になりますので、副反応が起きた場合の対策を事前に主治医と相談しておくことが重要です。

  • 1) Antibody response to SARS-CoV-2 vaccines in patients with hematologic malignancies. Cancer Cell. 2021;39(8):1031-1033.
  • 2) BNT162b2 COVID-19 vaccine is significantly less effective in patients with hematologic malignancies. Am J Hematol. 2021;96(10):1195-1203.
  • Immunogenicity of the BNT162b2 COVID-19 mRNA vaccine and early clinical outcomes in patients with haematological malignancies in Lithuania: a national prospective cohort study. Lancet Haematol. 2021;8(8):e583-e592.
  • 4) Efficacy of the BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine in patients with B-cell non-Hodgkin lymphoma. Blood Adv. 2021;5(16):3053-3061.
  • 5) Adaptive immunity and neutralizing antibodies against SARS-CoV-2 variants of concern following vaccination in patients with cancer: The CAPTURE study. Nat Cancer. 2021;2:1321-1337.
  • 6) Cellular and humoral immunogenicity of the mRNA-1273 SARS-CoV-2 vaccine in patients with hematologic malignancies [published online ahead of print, 2021 Nov 29]. Blood Adv. 2021;bloodadvances.2021006101.
  • 7) Antibody and T cell immune responses following mRNA COVID-19 vaccination in patients with cancer. Cancer Cell. 2021;39(8):1034-1036.
  • 8) Immunogenicity and Safety of the BNT162b2 mRNA COVID-19 Vaccine Among Actively Treated Cancer Patients [published online ahead of print, 2021 Aug 28]. J Natl Cancer Inst. 2021;djab174.
  • 9) SARS-CoV-2 vaccine uptake, perspectives, and adverse reactions following vaccination in patients with cancer undergoing treatment. Ann Oncol. 2022;33(1):109-111.
  • 10) Pfizer-BioNTech and Oxford AstraZeneca COVID-19 vaccine effectiveness and immune response among individuals in clinical risk groups [published online ahead of print, 2022 Jan 3]. J Infect. 2022;S0163-4453(21)00664-2.
  • 11) Reduced SARS-CoV-2 infection and death after two doses of COVID-19 vaccines in a series of 1503 cancer patients. Ann Oncol. 2021;32(11):1443-1444.
  • 12) Anti-spike antibody response to SARS-CoV-2 booster vaccination in patients with B cell-derived hematologic malignancies. Cancer Cell. 2021;39(10):1297-1299.
  • 13) https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.07.18.21260669v1 外部サイトへ移動
  • 14) https://www.cancer.net/blog/2021-03/answers-your-questions-about-covid-19-vaccine 外部サイトへ移動
  • 15) Efficacy and safety of heterologous booster vaccination with Ad26.COV2.S after BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine in haemato-oncological patients with no antibody response [published online ahead of print, 2021 Dec 6]. Br J Haematol. 2021;10.1111/bjh.17982.
  • 16) SARS-CoV-2-reactive antibody detection after SARS-CoV-2 vaccination in hematopoietic stem cell transplant recipients: Prospective survey from the Spanish Hematopoietic Stem Cell Transplantation and Cell Therapy Group. Am J Hematol. 2022;97(1):30-42.
  • 17) Antibody response after 2 and 3 doses of SARS-CoV-2 mRNA vaccine in allogeneic hematopoietic cell transplant recipients. Blood. 2022;139(1):134-137.
  • 18) Antibody response after third BNT162b2 dose in recipients of allogeneic HSCT. Lancet Haematol. 2021;8(10):e681-e683.
  • 19) Correlation between BNT162b2 mRNA Covid-19 vaccine-associated hypermetabolic lymphadenopathy and humoral immunity in patients with hematologic malignancy. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2021;48(11):3540-3549.

PS不良であってもCOVID-19ワクチン接種は考慮すべきと考えられます。

接種のタイミング:

PS不良患者さんでは特に予後も勘案し接種のタイミングを検討するべきと考えます。

接種後の注意:

PS不良患者さんでも接種後に注意すべき点は通常の場合と同様と考えられますが、副反応が及ぼす影響は健常者より大きいと考えられ、慎重な経過観察が必要と思われます。

解説
がん患者さんのワクチン接種は、各国から出されているガイドラインで推奨されています1)2)3)。PS不良はCOVID-19の重症化リスクのひとつであり、PS不良のがん患者さんは、担癌状態や高齢など他の重症化リスクも併せて該当される方も多いと考えられます4)

PS不良の患者さんのワクチンの有効性、安全性に関するデータは限られています。がん患者さん全体では一般対象者と同様の有効性、安全性であることが示されています5)6)7)8)。また、高齢者や全身状態不良の方が多く含まれる療養施設入所者を対象としたワクチンの検討では、一部で施設入所者では若干副反応が多く出ると言う報告もありましたが9)、その他の報告で概ね一般の方と同等の有効性および安全性とされています10)11)12)。また、これらの報告では施設入所者本人だけでなく、施設労働者を含めた周囲の方々へのワクチン接種が有効であることも強調されています13)
以上より、PS不良の患者さんにおいてもワクチン接種から得られる利益が副作用のリスクを上回るケースが多いと考えられますが、最新のデータを参考に、主治医の先生と予後も勘案し慎重に判断することが大切と考えられます。

  • 1) https://www.cdc.gov/cancer/survivors/staying-well-during-covid-19.htm 外部サイトへ移動
  • 2) https://www.asco.org/covid-resources/vaccines-patients-cancer 外部サイトへ移動
  • 3) https://www.esmo.org/covid-19-and-cancer/covid-19-vaccination 外部サイトへ移動
  • 4) Kuderer NM, Choueiri TK, Shah DP, et al. Clinical impact of COVID-19 on patients with cancer (CCC19): a cohort study. Lancet. 2020 Jun 20;395(10241):1907-1918.
  • 5) Thomas SJ, Perez JL, Lockhart SP et al. COVID-19 vaccine in participants with cancer: Subgroup analysis of efficacy/safety from a global phase III randomized trial of the BNT162b2 (tozinameran) mRNA vaccine. Annals of Oncology 2021; 32: S1129.
  • 6) Oosting S, Van der Veldt AAM, GeurtsvanKessel CH et al. LBA8 Vaccination against SARS-CoV-2 in patients receiving chemotherapy, immunotherapy, or chemo-immunotherapy for solid tumors. Annals of Oncology 2021; 32: S1337.
  • 7) Goshen-Lago T, Waldhorn I, Holland R et al. Serologic Status and Toxic Effects of the SARS-CoV-2 BNT162b2 Vaccine in Patients Undergoing Treatment for Cancer. JAMA Oncology 2021.
  • 8) Sapir E, Moisa N, Litvin A et al. SARS-CoV-2 vaccines in cancer patients, real-world data from 1069 Belong.life users. Annals of Oncology 2021; 32: S1144.
  • 9) Torgeir BW, Bård RK, Anette HR et al. Pernille Harg, Marius Myrstad. Nursing home deaths after COVID-19 vaccination. Tidsskr Nor Laegeforen. 2021 May 19;141.
  • 10) Ríos SS, Romero MM, Cortés Zamora EB, et al. Immunogenicity of the BNT162b2 vaccine in frail or disabled nursing home residents: COVID-A study. Journal of the American Geriatrics Society. 2021;69(6):1441–1447.
  • 11) Shrotri M, Krutikov M, Palmer T, et al. Vaccine effectiveness of the first dose of ChAdOx1 nCoV-19 and BNT162b2 against SARS-CoV-2 infection in residents of long-term care facilities in England (VIVALDI): a prospective cohort study. Lancet Infect Dis 2021; 21: 1529–38
  • 12) Bardenheier BH, Gravenstein S, Blackman C, et al. Adverse events following mRNA SARS-CoV-2 vaccination among U.S. nursing home residents. Vaccine. 2021 Jun 29;39(29):3844-3851.
  • 13) Domi M., Leitson M., Gifford D., Nicolaou A., Sreenivas K., Bishnoi C. The BNT162b2 vaccine is associated with lower new COVID-19 cases in nursing home residents and staff. J Am Geriatr Soc. 2021 Aug;69(8):2079-2089.

A:症状の種類や程度によっても状況は異なるかと思いますが、がんが疑われ既に症状が出ているのであれば、原則としてまずは症状に対する受診を優先すべきです。PET/CTなどワクチン接種直後では結果に影響が出る可能性のある検査もありますので、まずはがんの疑い症状について医療機関を受診されて、その時にワクチン接種のタイミングについても担当医に相談されることをおすすめします。

A:がん治療後の定期的な経過観察の際には、定期的な診察、血液検査、画像検査を行うことが多いかと思います。ワクチン接種により血液検査の変化やリンパ節の腫れが起きうるため、がんの再発と紛らわしい場合があります。ワクチン接種をする場合には、治療後経過観察のスケジュールと接種のタイミングについて主治医と相談しながら行うことが良いでしょう。

A:COVID-19に既に感染した方もワクチンを受ける事で再感染のリスクと再感染時の重症化を予防する効果が期待できます。感染後、症状がなくなり体調が回復すれば感染からの期間に関わらずワクチンを接種することができます。米国CDCはロナプリーブやソトロビマブなどのモノクローナル抗体療法を受けた方は、抗体が残っているため治療から90日間空けることを推奨していますが、日本ではワクチン接種を希望する場合には、本治療から90日間経過していなくても接種は可能です。
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0028.html 外部サイトへ移動

A:COVID-19ワクチンの接種はがんの治療を受けている医療機関である必要はありません。近隣の医療機関、クリニック、集団接種会場など、接種予約がとりやすい、あるいはアクセスしやすい医療機関や会場での接種がよいでしょう。

A:緩和ケアに専念している場合でも、接種すべきと考えられます。

A:差し支えなければ治療後であっても申告することを勧めます。

A:接種部位を相談する選択肢もあります。

解説
ファイザー社によるBNT162b2(商品名 コミナティ)の添付文書では、原則、三角筋での接種を推奨しています。英国公衆衛生庁も原則、三角筋での接種としながらも、難しい場合には大腿(もも)での筋肉注射について言及しています1)
乳がんの手術側の三角筋にワクチンを接種した場合に、リンパ浮腫を起こしやすいかどうかについての知見は現時点では十分ではありません。BNT162b2の添付文書に、副反応としてリンパ節症(頻度1%未満)と記されています2)。英国のがんチャリティ団体CANCER RESEARCH UK3)や英国乳がんチャリティ団体Breast Cancer Nowのホームページ4)によると、BNT162b2の副反応としてリンパ節の腫れがあり、乳がんの治療後にリンパ浮腫がある場合、反対側の三角筋に接種するという選択肢、両側の手術後の場合には、大腿(もも)の筋肉に接種する選択肢を紹介しています。英国リンパ学会も、乳がんや皮膚がんのために手術や放射線治療を受け、リンパ節に治療が及んだ場合などには、反対側や大腿への接種を推奨しています5)
ワクチン接種後のリンパ節の腫れはがんのリンパ節転移とまぎらわしい可能性もあります。そのため、CTやPET-CTなどの画像検査を予定する場合には、可能であれば接種から4~6週間の間隔をあけることも考慮してほしいと記載されています6)。
あらかじめ、主治医あるいはワクチン接種担当の医療従事者に相談しておくことを勧めます。

A:ワクチン接種後、接種部位近傍のリンパ節が腫大したり、FDG PET-CT検査で強い集積像として描出されることが報告されており1)、そのような場合、がんの転移再発との画像上の鑑別は困難です。従いまして、治療を受けられたがんの初発時の状況と現在までの治療後経過、ワクチン接種と画像検査までの期間などを総合的に検討した結果、がんの再発の可能性が高いと考えられる場合には次回の定期検査の時期を待たずに再検査を受けることが望ましいと考えられます。一方、再発の可能性が低いと考えられる場合は、早期の再検査は必ずしも必要ないと判断される場合もあると思われます。担当医とよく相談されて、再検査の利点と欠点を理解された上で対応を決めていただくことをお勧めします。
1) Miyamoto Y, et al. Global Health & Medicine. 2021; 3(3):129-133.。

A:多くの施設で、COVID-19の流行下で面会制限を設けています。各施設にお問い合わせの上、ご対応を検討ください。

A:ワクチンで抗体が産生されない方は一定数おられ、その方がCOVID-19に曝露した場合には感染のみならず重症化リスクも上昇してしまいます。そのため、他の対策では感染予防と集団免疫が重要です。
まず、感染予防は自身のマスク以外に、接触する方同士のマスクや三密(密集、密接、密閉)を避けるなどの対策が重要です。
次に、集団免疫ですが、集団免疫とはワクチン接種を行うことで、感染リスクを低下させ、免疫がない方も守るという考え方です。そのため、家族や接触する周囲の方のワクチン接種は重要です。また、周囲の方がワクチン接種を行なっても、感染してしまうリスクはあるため、上記に述べたような感染予防策を行ってもらうことが大切です。

COVID-19ワクチンには殖やしたウイルスを不活化しウイルス全体を抗原とする不活化ワクチンとスパイク蛋白のみを抗原とするものがあり、後者は精製したスパイク蛋白そのものを接種するもの、スパイク蛋白に翻訳されるmRNAを接種するもの、スパイク蛋白をコードするDNAをプラスミドまたはウイルスベクターに取り込ませて接種するものに分けられます。日本で輸入を予定している3つのワクチンのうち、2021年2月より接種が始まっている米国ファイザー社とドイツのビオンテック社とが開発したワクチンBNT162b2(商品名 コミナティ)とモデルナ社が開発したワクチン(以下モデルナ社ワクチン)は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイク蛋白をコードするmRNAワクチンです。mRNAとポリエチレングリコール(PEG)複合体が脂質二重膜につつまれており、筋肉注射により筋肉細胞の細胞質に取り込まれスパイク蛋白に翻訳されます。RNA自身にTLR7などを介したアジュバント効果が期待されるため、これまでのワクチンと異なりアジュバントが含まれていません。3~4週間の間隔をあけて2回接種することで抗体価を上げます。懸念されていた抗体依存性感染増強(ADE)の誘導は報告されておらず、効果も約95%とインフルエンザワクチンなどと比べてはるかに高い有効性が示されています。米国ではどちらのワクチンも2020年12月にはFDAの緊急使用承認を受けました。日本では2021年2月14日にファイザー社のワクチンが、2021年5月21日にモデルナ社ワクチンが特例承認され接種が開始され、2022年1月時点でのべ2億回以上接種されています。安全性については、接種直後のアナフィラキシーショックやアレルギー反応がインフルエンザワクチンより高い頻度で報告されています。ファイザー社のワクチンでは100万回あたり18回、モデルナ社のワクチンでは100万回あたり161件のアナフィラキシー疑いの報告がありましたが、そのうちアナフィラキシー(ブライトン分類1~3)と評価されたものは、それぞれ581件(100万回)あたり3.6件)、50件(100万回あたり1.6件)と報告されています。PEGは化粧品などに多く含まれており、女性でアナフィラキシーやアレルギーが多いことからワクチン成分のPEGが原因であるとの仮説が提唱されていますがまだ検証はされていません。英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は、過去にワクチン接種で重大なアレルギー反応が現れたことのある人は接種しないよう勧告しています。接種後の心筋炎・心膜炎についてはファイザー社ワクチン、モデルナ社ワクチンについて、それぞれ281件(100万回接種あたり1.7件)、195件(100万回接種あたり6.1件)の報告があり、いずれも2回接種後の若年男性で報告頻度が高いことが示唆されています。しかしその大半は軽症でありほとんどは完全に回復していることから、日本循環器学会は「新型コロナウイルスワクチン接種による利益は、ワクチン接種後の急性心筋炎と心膜炎の危険性を大幅に上回る。」との声明を出しています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_hukuhannou-utagai-houkoku.html 外部サイトへ移動
https://www.j-circ.or.jp/topics/jcs_statement_2021/ 外部サイトへ移動

また、mRNAは分解されやすいため低温での保管が必要です。特にファイザー社のワクチンは-80℃で輸送、長期保存する必要があり、-25~-15℃での保存は最長14日間、解凍後は冷蔵庫内(4-8℃)での保管期間は5日間とされています。モデルナ社ワクチンは解凍後冷蔵庫内(4-8℃)で30日間保存出来るとされています。 3つ目のワクチンは、英オックスフォード大学とアストラゼネカ社が共同開発したアデノウイルスベクターワクチン(ChAdOx1)で2020年12月末に英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)により緊急承認され、すでに接種が開始されています。このワクチンは前者2つとは異なり、チンパンジーの風邪ウイルス(アデノウイルス)ベクターにSARS-CoV-2のスパイク遺伝子を組み込んだもので、筋肉注射によりウイルスベクターが筋肉細胞核内に取り込まれmRNAに転写された後スパイク蛋白が産生されます。治験での有効性は平均70%とmRNAワクチンよりは低めでしたが、比較的安価に大量生産が可能で冷蔵庫(2~8℃)で保管できるなどのメリットがあります。日本でも2021年5月21日に厚労省より特例承認されていますが、副作用として10-25万回に1回程度に接種後1か月以内に血栓症が報告されており、男性に比べ女性、特に若い女性の頻度が高いと報告されています。そのため、日本国内では、原則40歳以上が対象ですが、アレルギーなどでmRNAワクチンを接種できないなど、特に必要がある場合は18歳以上が接種対象となっています。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2104840 外部サイトへ移動
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2104882 外部サイトへ移動
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0044.htm 外部サイトへ移動
https://www.anaphylaxis.org.uk/2020/12/10/mhra-statement-on-guidance-to-vaccination-centres-on-managing-allergic-reactions-following-covid-19-vaccination/ 外部サイトへ移動

その他、米ジョンソンエンドジョンソン社はヤンセンファーマが開発したヒトアデノウイルス26型ベクターにスパイク遺伝子を組み込んだワクチンの緊急使用の承認を2021年2月米国FDAより受けています。このワクチンは他のワクチンと異なり1回接種で66%の有効性を示し、85%の重症化予防効果を示しています。日本でもヤンセンファーマの日本法人が臨床試験を進めています。また、米国のバイオテクノロジー企業ノババックス社は昆虫細胞で作らせた精製スパイク蛋白に同社独自のアジュバント「Matrix-M」を添加したワクチンを開発し、25,425人を対象にした米国、メキシコでの治験では90.4%の有効率を、14,039人を対象にしたイギリスでの治験では89.7%の有効率を示し、緊急使用承認を目指して2022年1月にはFDAへ申請しています。武田薬品はノババックス社と提携し、国内でワクチンを製造販売する計画を発表しています。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2107659 外部サイトへ移動

また、ロシア、中国などで開発されたワクチンも接種が開始されています。ロシアは第3相試験なしに世界に先駆けて2020年8月にワクチン(スプートニクV)を承認したことが問題視されていますが、1回目と2回目で異なる型(26型と5型)のヒトアデノウイルスベクターを用いることでアデノウイルス蛋白に対する免疫反応を抑えるよう工夫されており91.4%の有効性を発表しています。中国ではシノファーム社とシノバック社などが従来型の不活化ワクチンを開発して中国国内やCOVAXなどを介して東南アジア、アフリカなどで接種されています。
これらのワクチンは全て武漢で見つかったウイルス株を元に作られており、中和抗体の標的となるスパイク遺伝子の変異が多く蓄積したオミクロン株に対する感染予防効果は低下しており、ワクチン接種後に感染するいわゆる「ブレイクスルー感染」が多く報告されています。
これはワクチンで誘導されたRBD(受容体結合ドメイン)を認識する中和抗体の多くはオミクロン株のスパイク蛋白にある多くのアミノ酸置換により結合力が弱くなったり、結合できなくなったりしているためだと考えられています。ファイザー社は既にオミクロン株に対応したワクチンの製造を開始、モデルナ社もオミクロン株に対応したワクチンを開発中だと発表しています。一方でRBD以外の変異の少ない領域に対する抗体の中には中和抗体活性を持つものがあることから、3回目の現行ワクチン接種により、オミクロン株への感染予防効果が期待されています。一方重症化予防効果は比較的良く維持されています。変異の少ない領域に対するT細胞免疫の効果は維持されていることからワクチン接種による重症化予防に寄与していることが推測されています。3回目の追加接種では2回接種したワクチン(アストラゼネカ社ワクチンを含む)の種類に関わらず、ファイザー社またはモデルナ社のワクチンを接種すること(交互接種)が認められています。ただし、モデルナ社のワクチンは2回目までの量の半量で接種することで薬事承認されています。元々ファイザー社のワクチンはmRNAが30 μgに対しモデルナ社のワクチンは3倍以上の100μgのmRNAが含まれており、抗体価の上昇もモデルナ社のワクチンで高い傾向があり、3回目の接種では半量の50μgでも十分効果があるとしています。また、米国の研究では交互接種を含む追加接種による抗体価の上昇は良好で、副反応に関しても交互接種と同種接種の間で差はなかったと報告されています。

https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0100.html 外部サイトへ移動
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)02717-3/fulltext 外部サイトへ移動

当初、COVID-19は小児での発症が少なくワクチン接種対象でありませんでしたが、変異株などによる小児への感染が増加し、米国FDAは2021年10月29日には5~11歳への接種を承認しています。日本では当初16歳以上が接種対象でしたが、2021年5月31日からは12歳以上に変更されています。さらに、ファイザー社のワクチンについては、2022年1月に5~11歳への接種も承認されました。

https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0044.html 外部サイトへ移動


主なワクチンの特徴

製薬企業など 名称 ワクチンタイプ 接種方法 備考
ファイザー BNT162b2
製品名「コミナティ筋注」
mRNA (30 μg) 筋注2回、21日間隔 緊急使用承認済み、輸入中
モデルナ mRNA-1273
製品名「スパイクバックス筋注」
mRNA(100μg ただし3回目の追加接種は50μg) 筋注2回、28日間隔 緊急使用申請中(武田薬品)
アストラゼネカ AZS1222
(ChAdOx1)
製品名「バキスゼブリア筋注」
ウイルスベクター
(チンパンジーアデノウイルス)
筋注2回、4-12週間隔

緊急使用承認済み

(原則40歳以上)
J&J Ad26.COV2.S ウイルスベクター(ヒトアデノウイルス26型) 筋注1回 ヤンセンファーマ
ノババックス NVX-CoV2373 精製蛋白(昆虫細胞で産生) 筋注2回 武田薬品
シノファーム BBIBP-CorV 不活化ワクチン 筋注2回 輸入予定なし
ガマレヤ疫学・微生物研究所 スプートニクV ウイルスベクター[ヒトアデノウイルス26型(1回目)・5型(2回目)] 筋注2回 輸入予定なし

日本企業では塩野義製薬が精製たんぱく質を抗原としたワクチン、KMバイオロジクスが不活化ワクチン、VLPセラピューティクス・ジャパンが自己複製型RNAワクチン(レプリコンワクチン)、アンジェス社がDNAワクチン、第一三共がmRNAワクチンの開発、治験を進めています。

新型コロナワクチンについてのQ&A|厚生労働省 (mhlw.go.jp) 外部サイトへ移動

SARS-CoV-2はゲノムサイズ29.9kbのうち平均して一か月に2か所くらいの変異が蓄積しています。多くの変異は感染力や病原性に影響を与えることはありませんが、感染拡大が続くと確率的に免疫回避や伝播力の高い適応変異が現れる可能性が増加します。中でもスパイク遺伝子内の変異は感染性や中和抗体の効果に影響を与えるため注目されています。
SARS-CoV-2のスパイク蛋白は1,273アミノ酸からなり、3量体としてウイルス表面に多数存在します。スパイク蛋白の受容体結合ドメイン(RBD:アミノ酸残基319-541)を介して細胞表面にあるACE2と結合後、furinプロテアーゼによりR685/S686の間で切断されS1サブユニットとS2サブユニットに分かれます。S2サブユニットはさらにTMPRSS2によりR815/S816のS2’部位で切断を受けウイルスの膜融合が促進されます。ACE2受容体結合ドメイン(RBD)はS1サブユニット内にあり、中和抗体の多くはRBDを認識して結合します。そのため、この領域のアミノ酸の変異が特に注目されています。スパイク蛋白のD614Gアミノ酸置換はほとんどの変異株に見られており、D614G置換は元株に比べ感染力が上がっていることが2020年9月号のCELL誌に報告されています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32730807/ 外部サイトへ移動

変異株のうち注目すべきものはVOI (varinant of interest)として命名され、感染性や病原性の増加が懸念されるものはVOC (variant of concern)となります。これまでに報告されている主なVOCはイギリス、ブラジル、南アフリカで見つかった変異株です。イギリスのケント州で流行が拡大したアルファ株(B.1.1.7)には23か所と通常より多い変異が見られ、そのうち9か所はスパイク遺伝子内に見つかっておりVOC202012/01と命名されています。このイギリス変異株には日本で流行しているD614G変異に加えN501Y変異がありヒトやマウスのACE2への親和性が増していることが示されています。

https://www.cogconsortium.uk/news_item/update-on-new-sars-cov-2-variant-and-how-cog-uk-tracks-emerging-mutations/ 外部サイトへ移動

南アフリカやブラジルで最初に見つかったベータ株(B.1.351)やガンマ株(P.1)ではアルファ株で見られるスパイク蛋白内のN501Y置換に加えE484K置換を持ち、人での伝播性が増していることが示唆されています。インドで検出されたデルタ株にはT19R, G142D, del157/158, L452R, T478K, D614G, P681R, D950Nなどのアミノ酸置換があり、特にL452R, E484Q, P681Rなどのアミノ酸置換はACE2受容体への結合力と感染・伝播性の増加や中和抗体に対する反応性の低下に関わっていることが示唆されています。日本では2021年7月にデルタ株の割合が50%を超え、8月末にはほぼ100%に達し、第5波をもたらしました。その後2021年12月まで徐々に患者数は低下しましたが、2021年11月に南アフリカで見つかったオミクロン株(B.1.1.529)が急速に感染拡大し、2022年1月には日本を含む世界中に感染拡大しています。オミクロン株はスパイク蛋白内に約30カ所のアミノ酸置換中約15箇所は受容体結合部位(RBD)に存在し、その内5箇所(G446S, Q493R, G496S, Q498R, Y505H)のオミクロンに特異的なアミノ酸置換はACE2受容体や中和抗体の結合部位に位置しています。そのため、ワクチン接種で誘導された中和抗体の多くがオミクロン株に対しては有効性が低下しており、いわゆる「ブレイクスルー感染」が増加しています。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/jmv.27516 外部サイトへ移動https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0092867421014951 外部サイトへ移動https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0092867421015786?via%3Dihub 外部サイトへ移動

オミクロン株は感染・伝播性に関わるとされるN501Y,D614Gなどアルファ、ベータ、ガンマ株と共通のアミノ酸置換を有するもののオミクロン株に特異なアミノ酸置換に加え3箇所の小欠失、1箇所の挿入があり、他のウイルス株と分子系統樹上の類似性が低くなっています。H655Y、N679K、P681Hのアミノ酸置換はフリン切断部位近傍の配列で、細胞侵入に関わっている可能性があります。疫学的にはデルタ株と比べても感染・伝播性が増加しており、潜伏期間も短くなっている一方、初期の解析ではデルタ株などと比べ重症化率は低い可能性が示唆されています。日本で見つかる変異のモニタリングは国立感染研究所が行っており最新の結果を報告しています。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/covid-19.html 外部サイトへ移動
https://www.imperial.ac.uk/media/imperial-college/medicine/mrc-gida/2021-12-22-COVID19-Report-50.pdf PDF

SARS-CoV-2は人だけでなくネコ、イヌ、ミンクなど多くの動物にも感染が確認されており、ウイルス学的に根絶は困難になっています。ペットから人に感染した例はまだ報告されていませんが、ミンクから人への感染がScience誌に報告されています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33172935/ 外部サイトへ移動

また、コロナウイルスは異なる株や種間で遺伝子の組換えが可能で、実際に日本でもアルファ株とデルタ株の組換え体とみられるウイルスが検出されており、キプロスではデルタとオミクロンの組換え体が報告されています。今後、オミクロン株のように多くの変異をもつウイルスが突然出現する他、既存のコロナウイルスと組換えを起こしたウイルスが流行株として出現する可能性もあり引き続きモニタリングが必要です。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34499854/ 外部サイトへ移動
https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10707-covid19-61.html 外部サイトへ移動

SARS-CoV-2のスパイク蛋白質に対するモノクローナル抗体は高リスクな濃厚接触者や感染初期の患者に投与することで発症予防や重症化を予防することができます。米国リジェネロン社が開発した2種類のモノクローナル抗体casirivimabとimdevimabのカクテル療法は2021年6月3日にFDAより緊急使用承認を得ました。リジェネロン社と協働しているロシュ社より中外製薬が日本における独占的販売権を獲得し、2021年7月19日に商品名「ロナプリーブ」として厚労省より特例承認として薬事承認を受けました。対象は軽症もしくは中等症の12才以上のCOVID-19患者さんで、基礎疾患があるなど重症化が予想される患者さんとなっています。軽症もしくは中等症に対して重症化予防が可能な薬剤としては初めての承認薬で米国の第3相試験では70%を超える重症化予防効果が報告されています。一方、酸素吸入や人工呼吸器を使用しているCOVID-19患者さんに対して効果はなく、むしろ悪化する可能性があり投与は認められていません。

https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/coronavirus-covid-19-update-fda-authorizes-monoclonal-antibody-treatment-covid-19 外部サイトへ移動

一方、GSKとVir Biotechnologyは、スパイク蛋白の中で、SARS-CoV-1でも保存されているN343付近のエピトープを標的としたモノクローナル抗体sotrovimab(ソトロビマブ)を開発しました。この抗体はスパイク蛋白とACE2の結合領域以外に結合するため両者の結合を阻害することはできませんが、おそらく3量体形成を不安定化することで、中和活性を示すと考えられています。また、ソトロビマブには抗体Fc領域を最適化し半減期を延長するXencor社のXtend技術が取り入れられており、単独のモノクローナル抗体製剤でありながら、第3相試験の中間報告では重症化を85%低減したことから米国では、2021年5月26日にFDAより緊急使用承認され、日本でも2021年9月27日に厚労省より特例承認されています。ロナプリーブもソトロビマブも国が買い取り、医療機関からの希望を受け付けて供与するため、薬価収載はされていません。

https://jp.gsk.com/jp/media/press-releases/2021/20210604_gsk-and-vir-biotechnology-announce-sotrovimab/ 外部サイトへ移動

スパイク遺伝子内に多くの変異をもつオミクロン株に対しては、ロナプリーブ内の2つのモノクローナル抗体を含むほとんどのモノクローナル抗体の効果が著しく低下していることが報告されています。一方、ソトロミマブはそのエピトープ付近の1箇所のアミノ酸置換(G339D)がみられるものの、中和活性を維持していることが示唆されています。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0092867421014951 外部サイトへ移動
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0092867421015786?via%3Dihub 外部サイトへ移動

<作成>
がん関連3学会(日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会)合同連携委員会
新型コロナウイルス(COVID-19)対策ワーキンググループ(WG)

■WG長
寺嶋 毅(東京歯科大学市川総合病院 呼吸器内科)
■WGメンバー
【日本癌治療学会】
江藤正俊(九州大学大学院医学研究院 泌尿器科学分野)
掛地吉弘(神戸大学大学院医学研究科 食道胃腸外科)
調 憲(群馬大学大学院医学系研究科 総合外科学講座肝胆膵外科分野)
西村恭昌(近畿大学医学部 放射線腫瘍学部門)
藤原俊義(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器・腫瘍外科学)
溝脇尚志(京都大学大学院医学研究科 放射線腫瘍学・画像応用治療学)
【日本癌学会】
清野 透(国立がん研究センター 先端医療開発センター)
高山智子(国立がんセンターがん対策情報センター がん情報提供部)
松尾恵太郎(愛知県がんセンター研究所 がん予防研究分野)
松岡雅雄(熊本大学生命科学研究部 血液内科)
三森功士(九州大学病院別府病院 外科)
【日本臨床腫瘍学会】
市原英基(岡山大学病院 呼吸器・アレルギー内科)
小林信明(横浜市立大学附属病院 呼吸器内科)
小山泰司(神戸大学医学部付属病院 腫瘍・血液内科)
姫路大輔(県立宮崎病院 内科)

PDFダウンロードはこちらから PDF