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理事長レター

理事長レター Vol.12「MOGA 2019に参加して」

日本臨床腫瘍学会 理事長 石岡千加史MOGA 2019に参加して

皆様、残暑御見舞い申し上げます。さて、私は2019年8月14日~16日にオーストラリアの首都キャンベラで開催されたMedical Oncology Group of Australiaの年次学術集会 (MOGA 2019)に参加してきましたので御報告いたします。

MOGAとJSMO
MOGAは1978年に設立され、今年は40周年の記念大会となりました。現在568名の腫瘍内科専門医が会員として参加している学術団体です。若手のリクルートのために2014年にはMOGAの下にYOGA(Young Oncologist Group of Australia)を組織したそうです。会の規模は確かに小さいですが、歴史は日本よりかなり古く、オーストラリアの人口が日本の約5分の1であることを考えると、人口あたりの専門数はJSMOよりMOGAの方が多いことを考慮すべきでしょう。JSMOとは規模や会員の職種・専門性の特徴が異なりますが、腫瘍内科医が中心となる当会とは2013年から相互の学術集会や日本でのビジネス会議への代表の相互招待参加が行われています。これまでJSMOの歴代理事長も参加してきました。今回もMOGAからのJSMO代表への招請により参加して参りました。

MOGA2019
Prof. Desmond Yip先生(Clinical Director of Department of Medical Oncology, Canberra Hospital/Professor, Australian National University Medical School)がMOGA2019の学術集会長(Convenor)を担当し、Yip先生の地元キャンベラで開催されました。MOGAの年次学術集会の規模は小さく(JSMOの10分の1以下)、今回は全演題数のうち口頭発表は53演題(企業主催を含む)で、1~3会場で開催されました。企業展示会場ではポスター展示が行われ、57演題(一部は口頭発表と同一内容)が掲示、ポスター発表時間がプログラムに組まれていました。シンポジウムでは臓器別セッションに加え、免疫チェックポイント阻害薬、がんゲノム医療について取り上げられ、JSMOを含めた他の関連学会の学術集会とフォーカスは概ね同じでした。シンポジウムでは、サバイバーシップ、消化器癌、脳転移とプレシジョン・オンコロジーが企画されていました。オーラルセッションには若手のプロファード・ペーパー、プロファード・ペーパーのレビューがありました。この他、40周年特別企画(後述)、プレナリーセッション(国内で行われた企業治験2,臨床試験1,精神腫瘍学のレジストリ研究1、希少フラクションの後ろ向き解析1)に加えて、朝と昼に企業スポンサーの講演企画が多数有りました。国内でがん医療の重要性や腫瘍内科医の役割の重要性について医師会や行政に提言していること、若手リクルートに工夫を凝らしている点など、複数の発表で強調されており、JSMOが参考すべき点や類似の点が少なく無いと感じました。一方、参加者の規模が小さい割には企業スポンサーの企画や展示など企業支援がしっかりしていた印象を持ちました。なお、プログラムと抄録はAsia-Pacific Journal of Clinical Oncology vol.15, pp1-104, 2019に特集号として掲載されています。

MOGAとダイバーシティーについて
学術集会プログラムの中で最も印象深かったのは、40周年の特別企画(Celebrating 40 Years of Australian Medical Oncology Getting Personal: Working as a Medical Oncologist in Australia Now)でした。A/Prof Zarnie Lwinの司会で、トピック1: The Ultimate Balancing Act: Family and Career, Presenter: Dr Florian Honeyball、トピック 2: Emotional Intelligence for Medical Oncologists, Presenter: Dr Diana Adams、トピック 3: Diversity-Navigating the Reality and the Challenges, Presenter: Dr Prunella Blinman(司会とトピック2と3の講師は女性)の3つの講演がありましたが、このうち、トピック3ではDr. Prunella Blinman (Concord Cancer Center所属の腫瘍内科医,肺癌と消化器癌を専門、次期のMOGA代表) がダイバーシティ(diversity)の問題を、オーストラリアのgender, race, trans-gender, age and disability、medicine, medical oncology (MOGA)の視点で意見を述べました。このうちgenderについては医学生の53%が女性なのに女性の医学部長は28%と少ないこと、MOGAのメンバー568名は40%が女性で女性比率がやや少ないこと、1978年に発足したMOGA(設立40周年)の18名の歴代代表のうち女性は3名だけであること、2年前のMOGAの招待講演者15名のうち女性は2名だけだったこと(今年は女性が多いが)、などを問題だとしていました。上院議員76名中約半分の37名が女性のオーストラリアにあっても、各界でgender問題は未だに重要視されており、女性や障害者の国会議員が少ないことが昨今再び話題になっている日本において、今年度からgender含むdiversityの課題に取り組むことになったJSMOにおいては、特にトピック1で取り上げられたワーク・ライフバランスも考慮しながら対策を加速する必要があると感じました。この他、先住民族アボリジニやその他の少数民族のdiversityの問題をニュージーランドと共同でdiversity policiesを作成していることなどの紹介があり共感できる内容でした。MOGAは2018年にdiversity policyを策定したそうです。

首都キャンベラ
最後に旅先の街キャンベラについて少し。シドニーとメルボルンの間の内陸部に位置する首都キャンベラは人口40万人余りの静かで、人口の15%は政府関係者だとのこともあり治安が良い都市です(ガイドブックに記載のとおり)。国会議事堂、旧国会議事堂(ここでMOGA主催の40周年記念の夕食会’gala party’が開催されました)、戦争博物館、オーストラリア国立美術館(マルモッタン美術館のモネ特別展が開催されていました)、植物園など市内観光地は数えるほど、タクシーが少ないため移動にはuberが便利でした。この時期は冬なので、滞在中の最低~最高気温は1~15℃ほどでしたが、幸い天気に恵まれ猛暑の日本列島を離れ、避暑地に来た気分でした。

来年のMOGA 2020は西オーストラリア州都パースで開催されるそうです。人口200万人のパースはとオーストラリア第4の都市で、8月の平均気温は18,8℃と日本からみれば正に避暑地です。東京オリンピックと同パラリンピックの開催期間と重なる可能性があり、日本からの参加の場合は少し心配です。しかし、MOGAは、ASCOとESMOとは交流を持ちつつもこれらの巨大組織とは一定の距離を保ち、独自の活動を行っている点でJSMOと情報を相互共有するにはふさわしい会だと思いました。来年以降もJSMOとMOGAとの連携・交流は継続すべきと感じながら、帰路に機内でこの報告書を書きました。皆様はお盆休み、あるいは夏のリフレッシュ休暇をいかがお過ごしになられましたか。

  

 

2019年(令和元年)8月
日本臨床腫瘍学会
理事長
石岡千加史

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